2017年のコラム
母校であり現在の勤務先でもある東京藝術大学は、博物館や美術館が多くある上野公園のはずれに100年以上前から存在している。
上野公園はイベントの開催が多く、今や海外からの観光客も入り混じり大変な賑わいを見せているが、休みに入ると完全夜型になる私にとっては、どうやら夜の上野公園のほうに馴染みがあるようだ。
上野には大きな歓楽街があり、御徒町あたりで夕食を済ませた後、緩やかな坂道の続く公園内を通って大学の研究室に戻ることも多いのだが、歓楽街特有の猥雑な雰囲気は藝大までは届かず、「上野の山」の中腹で消え、藝大付近は怖いくらいに静かである。
さらに深夜帯になると、公園には落ち葉掃除をする人や道路清掃車が姿を見せ、そのころには日本の文化遺産たちが静かに眠り、公園界隈には神聖な空気が流れはじめる。
多くの芸術家達が才能を開花させ羽ばたいていく姿を、上野の森は100年以上見守って来たのだから、芸術を志す者にとってこれ程居心地の良い地域は無いのだと思う。
しかし、この森から大きく飛び立つ時は誰にでも訪れるはずである。そのタイミングを逸すると作家としての翼がこの森の中で錆びついていくのではないか。
入学してから17年。何らかの形で縁が切れずに藝大に関わって生きてきた。良いことも悪いことも、自分なりの成功も挫折も、すべてはこの神聖な上野の森に守られて。
そこから一歩足を踏み出したときに本当の自分が試されるのだと、深夜、上野の森の片隅でふと思う。