<コラム>日本画は進化していく

日本画というと、現代の日本において守るべき文化の一つとして取り上げられることがしばしばある。しかしその風潮は有難いことだと受け入れながらも、守られなければ衰退してしまうジャンルに日本画が分類されることに対しては、私はなんとなく腑に落ちない気持になる。 実際、日本画を制作する上で欠かせない画材については、業界自体が縮小化していく印象がここ 10 年で顕著だ。膠の製造元の廃業や、原料の不足だけではなく、法律上生産できなくなった絵具多々あり、作品制作に支障を来すこともあった。
しかし絵を描く人間も素材を作る人間も変わらず存在していくのだから、守るという意識ではなく更なる発展に向けて気持ちを切り替えて行けば問題はないというのが私の考えだ。
では、作家側が日本画の発展に向けて何をすれば良いのかといえば、日本画の存続を危惧して対策を練ることや、学術的な視点で研究を重ねることよりも、実は単純により多くの作品を生み出していくことに邁進すべきだと思う。
日本画材の扱い方はその日の天気、つまり湿度や気温により工夫が必要になる繊細なものだ。多くの天然の素材と向き合うその仕事は、完全なマニュアル化が不可能な無限な世界。四季のある日本で発展した日本画は、経験と勘による自然との対話が必要であり、自由自在に画材を使いこなし、思い通りの表現を作品に反映させるまでの試行錯誤は、常に挑戦と失敗の繰り返しである。
ゆえに、ものつくりの人間としては知識を得るために文献で素材を調べる時間より、より多くの実践を重ね、画材の特徴を体で覚えていくことが必要なのでではないか。失敗を恐れず色々なことを試し、躊躇することなく上質な絵具を使っていく。時には貴重な画材が作品の成功に結び付かないこともあるが、何時の日か報われるための失敗であるならば、数多くの名品を残してきた偉大な先人たちも必ず応援してくれるはずだ。
そこで得た経験が画材を生産する企業に伝われば、数十年前とは確実に変化した現代の風土にあった製品も生み出されるだろうし、実際、現代作家の用途やニーズに合わ合わせた新しい筆の開発に力を注ぐ若き職人もいる。また、画材店の売り場には 20 年前には無かった商品がすでに多く目につき、日本とは全く異なる気候の国でも対応できる新素材がさらに商品化されていくであろう。
作家と企業がそれぞれベストを尽くし切磋琢磨していく日本画の世界は、今後本格的に海外進出していく。その伸びしろの広さは日本画が進化していく可能性に置き換えられるものであり、守りの姿勢ではなく常に攻めの姿勢であるべき事を私たちに告げている。

アートジャパン「日本の美を支える企業」掲載




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